はじめに
弊社は世界各国に拠点を持ち、グローバルな体制でプロジェクトを推進しています。特に日本とベトナム(ハノイ・ダナン)の拠点間での協業は、多くのプロジェクトで積極的に採用されている体制です。
近年、AI による翻訳技術や音声認識の飛躍的な進化により、言語の壁を越えたコミュニケーションは以前と比べて格段にやりやすくなりました。リアルタイム翻訳ツールや AI 支援によるドキュメント作成など、テクノロジーがグローバルチームの協業を強力にサポートしています。
しかし、技術的な支援が充実した今でも、オフショア拠点とのプロジェクト運用には依然として特有の課題が存在します。私自身がベトナムチームとのシステム運用を通じて直面したのは、単なるコミュニケーションの問題だけでなく、タスクの依頼方法や協業の進め方そのものに関わる本質的な課題でした。
今回は、プロジェクトマネジメント的な話になってしまいますが、私自身エンジニアとしてチームをリードする立場として参画したプロジェクトで、チームのやり方を考えたこれらの経験から得られた、オフショアチームとの運用を円滑に進めるための実践的なポイントをご紹介したいと思います。
グローバルな働き方をするリードエンジニアの方に役立てば嬉しいです。
今回の例の前提となるチーム構成
下記でご紹介する課題と改善ポイントについて、私は下記のようなチーム構成で体験をしました。 チームの概要は以下のとおりです。
- すでに本番稼働しているプロダクトを運用中
- 10 名以下で構成される小規模チーム
- アジャイル・スクラムの考え方を適用
- チーム外にベトナム側の技術リーダーが存在
- 数年続くプロジェクトで、体制再編や人の入れ替わりが発生する
このような環境の中で、私たちは日本とベトナム間でのチームコミュニケーションに課題を抱えていました。
直面していた課題
チームでは当初、以下のような進め方をしていました。
- 日本側メンバーがタスクチケットを作成し、内容を簡単に記載
- スプリントプランニング前日に通訳メンバーへ説明して翻訳を依頼
- スプリントプランニングで PO と実施予定タスクを確認してスプリント開始
- スプリントレビューで実施したチケットを振り返り
一見すると問題なさそうに見えるこのフローですが、実際には以下のような課題が発生していました。
- 通訳メンバーへの負荷集中:スプリント切り替わりの数日間、通訳メンバーの負荷が極端に上がる
- 認識のズレ:ベトナムメンバーが実施した作業が、日本側メンバーの認識と異なった内容で実施されてしまう
- 完了判断の迷い:ベトナムメンバーがチケットをクローズしてよいか判断できない
これらの課題の根本原因は、「暗黙のルール」に頼ったコミュニケーションにありました。これまでのやり方や流れを都度アドリブで対応していたため、認識の齟齬が生まれやすい状態だったのです。
3 つの改善ポイント
これらの課題を解決するために、私たちは以下の 3 つのポイントを意識してコミュニケーションフローを改善しました。
ポイント 1:依頼内容と一緒に「背景・目的・ゴール」を明確にする
改善前は、タスクチケットに「何をするか」だけを記載していました。しかし、これでは「なぜそれをするのか」「どうなれば完了なのか」が伝わりません。
改善後は、以下の情報を必ず記載するようにしました。
- 背景:なぜこのタスクが必要なのか
- 目的:このタスクで達成したいこと
- ゴール(Acceptance Criteria):どうなれば完了と言えるのか
これにより、ベトナムメンバーがタスクの意図を正しく理解し、期待通りの成果物を出せるようになりました。また、完了判断も明確になり、「クローズしてよいか迷う」という問題が解消されました。
ポイント 2:作業内容を一緒に考える
タスクを「渡す」のではなく、作業内容を「一緒に考える」プロセスを取り入れました。
具体的には、以下のようなフローに変更しました。
- 日本側メンバーがタスクの背景・目的・ゴールを記載したチケットを作成
- ベトナムメンバーがチケットの内容を読み、TODO を自分で記載
- スプリントリファインメントで、実施に必要な情報が網羅されているかをお互いに確認し、合意してから Ready にする
- スプリントプランニングで、すべてのタスクが Ready になっていることを確認してスプリント開始
このプロセスで最も重要なのは、ベトナムメンバー自身が TODO を考えるという点です。ただ渡されるタスクではなく、自分で作業内容を考えることで、タスクに対する理解と責任感が醸成されます。
また、リファインメントで事前に認識を合わせることで、スプリント開始時点で「やることとゴールをきちんと理解した状態」でスタートできるようになりました。
ポイント 3:協業先拠点のリーダーを頼る
改善を進める中で気づいたことがあります。開発メンバーに直接伝えても、意図が十分に伝わらないことがあったのです。
そこで、複雑な内容や方針の変更については、ベトナム側の技術リーダーを介して伝えてもらうようにしました。
具体的には、以下のような流れで進めました。
- リーダーメンバー向けに、変更したい理由や細かい意図を記載したドキュメントを作成
- リーダーメンバーと認識を合わせるためのミーティングを実施
- リーダーメンバーからチームへ、背景を含めてトップダウンで展開
この方法に変えたところ、チームのやり方がスムーズに変わりました。
これは単なる日本、ベトナムメンバー間の「信頼性」の問題ではないと考えています。通訳を介することで抜け落ちやすい「なぜそうするのか」という背景情報を、リーダーメンバーがネイティブの言葉で詳しく伝えてくれたことがポイントでした。
現地出張で得られた気づき
上記のポイントの他に、ベトナム拠点に出張して感じたことが、チームとの円滑な協業をするうえで大きな気付きとなりました。
相手の状況を肌で感じる
現地に行くことで、ベトナムメンバーがどのようなタイムラインで仕事をしているのかを把握できました。勤務時間や休憩時間といった、リモートでは見えにくい情報が理解できたことで、コミュニケーションのタイミングや期待値の調整がしやすくなりました。
「顔を見る」ことの価値
メンバーの顔やひととなりを直接認識することで、チーム内の距離が一気に縮まった感覚がありました。言葉が完全に通じなくても、振る舞いを見ることで「どういった人なのか」という解像度が明らかに高くなります。
興味深いことに、ベトナムのメンバーからは「怖い人だと思っていたけど、会ってみたら違った」という声をもらいました。(怖い人だと思わせてごめんなさい。。。) お互いに、一緒に仕事をする相手がどういう人なのかを憶測ではなくきちんと理解することで、気持ちよく仕事ができるようになったと感じています。
まとめ
本記事では、ベトナムチームとのシステム運用を円滑に進めるための 3 つのポイントをご紹介しました。
- 依頼内容と一緒に「背景・目的・ゴール」を明確にする
- 作業内容を一緒に考える
- 協業先拠点のリーダーを頼る
これらの取り組みによる変化について、チームメンバーからは以下のような声がありました。
- 「以前より情報整理の負荷は増したが、代わりに認識違いによるやり直しのロスが減った」
- 「スプリント開始までにやることとゴールをきちんと理解してスタートできるようになった」
さいごに
振り返ってみると、今回ご紹介した内容は、たとえメンバー全員が日本人であってもチームマネジメントとして大切なことばかりです。 しかし、言語や文化の違いがある環境では、これらをより明確に、より丁寧に行う必要があると強く感じました。
体制変更などにより、新しいチームが発足したときなどは、最初にこういったルールやポリシーの明確化ができると良いと思います。 また、歴史があるプロジェクトでも、なんとなく進められているからと見過ごされてしまいがちですが、コミュニケーションが上手くできていないと感じる場合はこれまでの暗黙の了解に頼らず、明確なコミュニケーション構造をチームで検討するべきだと思います。
これらは決して特別なことではありませんが、オフショアチームとの協業においては、意識的に実践することで大きな効果を発揮すると実感しました。
これからも、グローバルチームで高い価値を提供していきたいと思います。


